何が起こったの

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 少し硬くてごつごつとした手が、背中を優しく撫でる。大丈夫だからと耳元で囁かれて、心拍数もようやく元通りへと戻っていく。
 やっと、怖がっていることに気づいて助けてくれた。そのことに安堵した健人は、ようやくパニック状態から抜け出すことができて、現状を把握する思考を取り戻した。
 健人は少し顔を上げて、抱きしめている歩の顔を見る。2、3度瞬きをして、目の前に居るのが本当に歩なのかと自分の目を疑った。雨に濡れたのか、髪の毛や服はびしょぬれになっていて、いつもとは違う雰囲気だ。抱きしめられていることに、なぜか嫌悪は抱かなかった。
「……あ、ゆむ……?」
 恐る恐る声をかけると、ゆっくりと体が離れていった。健人の顔を覗き込み、落ち着いているのを見ると「大丈夫?」と今度は確認するように尋ねてきた。
「え、あ……、うん」
 どう返事をして良いのか分からず、健人は頷くだけ頷くと歩は健人の頭を撫でて「良かった」と笑った。今まで見たことの無い、歩の笑顔に健人は固まった。へらへらしているわけでもなく、無理をして笑っているわけでもない、クラスメートに見せているような振りまいた笑顔でもない。健人だけに向けた笑みだった。
 電気が復旧したのか、パパッと何度か点滅した後、リビングに灯りが点いた。間近にいる歩の顔をじっと見つめて、どうしてここにいるのかと考えたが、理解できなかった。そして、なぜ、あんなふうに抱きしめたのかも分からない。雷が鳴り始めて、轟音とともに停電したところまでは覚えているが、歩が帰ってきたことなど覚えていなかった。
「……雷、苦手だったんだね」
「え……?」
「あんまり、無理しないほうがいいよ。じゃ、俺、風呂入ってくるから」
 歩は目も合わさずにそう言うとすぐに階段を上がって行ってしまった。か分からず、健人はその場に座り込んだまま、きょとんとしていた。濡れた体に抱きしめられたせいで、服が濡れて冷たいはずなのに、パニックに陥ったときと同じように心拍数が上がっていき、体が熱くなってきた。
 助けてくれた理由が分からない。嫌いだと言って、2ヶ月以上口すら利いていなかったと言うのに。かなり嫌っていたはずなのに、こんなことをされて気持ち悪いとも思わない自分の感情に、健人は戸惑っていた。
 それは歩も、同じだった。
 階段を駆け上がり、自室へ入ると同時に大きく息を吐き出す。雨が降り始めて、雷が鳴り、健人が怖がっているのではないかと思ったら我を忘れたように走り出していた。蹲って震えている健人を見たら、放っておけなかった。嫌っていて、顔も見たくない、口も利きたくないと思っていたのに、どうして抱きしめてしまったのか自分の行動が分からなかった。
「……何、してんだ。俺は……」

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