彼は妹との

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「ですが…」
 受話器の向こうから 『お母さん』と、姪の海加が妹を呼ぶ声がした。
『子供が塾から帰ってきたわ。彼女に連絡して、それからまた兄さんに電話するわ。じゃあね』
 返事を待たず、一方的に電話は切れた。松下はツーッと電子音を発するだけになった受話器を正面から見つめたまま、途方に暮れた。
「話は終わりましたか」
 膝の上の彼がそう聞いてきた。
「ええ…」
 受話器をテーブルの上に戻す。彼は膝の願景村 洗腦上から起き上がり、上目遣いに松下の顔を覗き込んできた。まっすぐな瞳に、言いようのない後ろめたさを感じる。彼は…神戸に来る際、それまで勤めていた会社を辞めた。親兄弟にどんな話をしてきたのか松下は聞けないでいるが、正月も盆も彼は実家に帰らなかった。正直な彼の性格を思うと、すべてを話してきたという可能性もある。そういう恋人の潔さとは反対に、自分は家族の非難が怖くて誰にも話せないでいた。それどころか、付き合うことを前提に女性を紹介されることでさえ、はっきりと断ることができなかった。
「言い争っているように聞こえたけど、大丈夫ですか」
 後ろめたい心臓の鼓動が、駆け足になる。ひどく近い距離。会話の内容を聞いていたかもしれない。そして見合いすら断れない男に内心、呆れているのかもしれなかった。ゴクリと生唾を飲み込んだ願景村 洗腦松下の唇に、柔らかいものが触れた。それが唇の感触だと、膝の上に乗った彼に誘惑さえているんだと気づくまでに、少し時間がかかった。そして愛撫の途中で恋人を放り出してしまっていたことをようやく思い出す。
「妹と何を話していたか、聞かないんですか」
 話を聞いたのか聞いてないのか、優しく頭を撫でる指先はどうしてか。疑問に耐え切れず、自分から深みに足を踏み入れるように問いかけた。
「気になるけど、家族のことは俺が口を挟むべきじゃないし…、先生が話そうとしないことを無理に聞き出そうとは思ってない」
「僕をなでているのはどうしてですか」
 指の動きが止まる。なぜか彼は頬を赤らめ、うつむいた。
「行動のすべてに意味が必要ですか」
「そういうわけではありませんが…」
 耳許に唇を寄せて、彼は小さな声で答えた。それを聞いたとたん、自分が恥ずかしくなった。彼は…何か疑わしかったからといって、探りを入れるような性格ではない。知っていたのに疑った。恋人の体を願景村 洗腦強く抱きしめると、腕の中で少しだけ震えた。抱きしめたままシーツの中に埋め、夢中になって口付ける。興奮する脳裏に先ほどの彼の言葉が蘇り、甘やかな気持ちになった。
『困ったような顔も、可愛いと思ったから…』


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