荒かった所為

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自宅に戻り、シャワーを浴びてから桐谷はキッチンに立った。
男の一人暮らしにしては手入れが行き届きすぎているキッチン。
仕事で毎日調理をしているが、自身が摂る食事もほぼ毎食自炊をしている。
仕事でもプライベートでも、料理をすることは好きだった。
個人的にグラタンを作った事はなかったが、以前店で出していたため、レシピの概要は頭に入っている。
具材をどうするかまだ決めかねていた桐谷は、冷蔵庫を開けた。

手早く2人分を調理し、後はオーブンに入れるだけの状態になったところで、オーディオのFMから22時を告げる時報が鳴った。
グラタンの焼き時間は短いから、食べる直前に焼き始めればいい。
すぐに使えるようオーブンの主電源を入れておいたが、23時を過ぎてもアキは戻って来なかった。

”二度と来ない”という可能性も十分あるとは考えていたが。
今朝の戸惑った表情が思い浮かぶ。
恐らくアキは普段、同じ人間の家に再び帰ることはない。
何となく、そういう印象を受けた。
嘆息して冷蔵庫から缶ビールを取り出し、一口呷ると、不意に思い立って、桐谷は玄関に足を運んだ。
我ながら意味の無い行動だとは思ったが、身体が動いた。
想像通り、扉の向こうにはいつもと同じ静かな夜の風景と、冷えた空気があるだけだった。

―何やってんだ、俺は。
自嘲して扉を閉めようとした時、直感が走った。
瞬時に、その直感は確信に変わる。

非常階段。
昨日と同じ場所。
桐谷は迷わず部屋から出て、踊り場の前に立った。

―。。。やっぱり。

階段の隅にうずくまる人の姿があった。
その手には、今朝桐谷が貸してやったコートを大事そうに抱き、膝を抱えて俯いている。




ったものだ

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 大魔女様の回転大ゲンコツの刑から辛くものがれた僕は、今度は炎天下放置プレイの刑に処されている。
 一体何の恨みがあるのか、大魔女様は次から次へと僕に無慈悲な刑罰をお加えなさる。
 ここは街の大広間。執行院から出た僕らはこの雋景場所に待機するよう言い渡され、その代わりと言わんばかりに街へ来た際とは異なる、先ほどよりほんの少しだけ豪華で広い馬車が横に鎮座している。
 院長用の奴だろうか? それはどうでもいい話だが。しかしこの猛暑では、影がある場所は砂漠に湧くオアシスの如く貴重な存在なのだ。

「はいは~い、押さないで押さないで~」

「……」

 このクソ熱い広場に召集されたのにはワケがある。すっかり忘れていたが、大魔女様は街の人気者なのだ。人気者の癖に年に一回しか姿を現さないケチな有名人を一目見ようと、街の住人が仕事等ほっぽり出してこぞって群がっている。
 執行院は混乱を避けるべくこれを見越してこの広い場所に待機させた……というわけだ。

「はい次の人~、お、おじいちゃん久しぶり! 聞いたわよ。また腰や雋景ったんだって?」

「……はい! もう無理しちゃだめよ」

「あ、おばあちゃんも久しぶり~。わっなにこれ。差し入れ? ありがと~!」

「……」

 僕には無縁の現象を最大レベルで実現する大魔女様の姿に、やや軽い嫉妬を覚える。むかつくのでやはり馬車の中で待機してようと思う。お前らはそうやって慣れあっているがいい。
 僕にはお前らが一生かけても手に入れられない、現代日本が誇る文明機器、スマ――――

「大魔女様、お待たせしました。帝都より伝心が届きましたのでご報告いたします」

「あれ、従者の方は……」

「あ、はいはい今行くわ。おーい、アホの異世界人、出ておいで~」

――――なんと間の悪い。異世界人はお前だよ。くそぅ……
 しかしこの場所に置いては僕がそれに当たるか……戦いは数雋景だとよく言。世界は違えど所詮、人は多数派に流れるのが持って生まれた性なのだ。

「何アタシを差し置いて一人で休憩してんのよ」

「熱中症はいやなんすよ」

「なにそれ。アンタ、日光で病気になんの?」

「軟弱にも程があるわね。太陽は大地を育む恵みの光なのに……」